私が生きてこなかった人生

ためらわず踏み出してゆくわ

生み出すことへの葛藤と挑戦とーーミュージカル『NINE』

NINEを観てきたよー!

映画版のスタイリッシュなパッケージからして"一人の男と彼を取り巻く多くの女性たち"なんて煌びやかなストーリーを想像していたら、まあ見事に裏切られ……。笑

  

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まず映画作りにちなんだ物語に合わせて、似たものすら思いつかないような演出ばかりだったので、「しかと藤田さんの挑戦を見届けました!」という気持ち。ジャージーやVIOLETも好きなのだけれど、今回ほどセンスとアイディアに驚かされたことはなかったと思う。ナンバーを英語歌詞のままにして同時に字幕を見せるのも、女性たちの色鮮やかな8色の衣装が最後に白黒になるのも、「映画」という表現の場を「演劇」として板の上に移すとこうなるのか〜と興味深かった。もちろん藤田さんお馴染みのカメラも大活躍。演出の目新しさに終始ほえ〜〜!と興奮してしまいました。


それに対して、自伝とも言われる小説が原作なだけあってストーリーはものすごく現実的。主人公グイドは天才映画監督ともてはやされながらも評判の良い作品が生み出せずに身や精神を削って苦しんだり、もがいたり、本当に大事にすべき人が分かっているのに寂しさゆえに他の人の気持ちまで求めたり、極めて人間らしい愚かさを持っている。普通のミュージカルなら巻き起こりそうなドラマティックな展開も最後まで決して訪れない。孤独も絶望も全て自分として受け入れて、大人にならねばならないと描かれる。

誰もが追いかけたくなる映画界のスターを描いているように見せかけて、一人の人間にひたすら向き合わせる淡々としたストーリーと、舞台でありながら映画を観ているような鮮やかな演出のコントラストが美しかった。お互いが補い合うようなバランスは初めて観たかもしれない。そして、人生の本質は決して華やかであるわけではないけれど、それでも映画のようなドラマがある。そんなメッセージも含まれていたように感じました。


実は日を同じくしてフリーコミティッドも観劇していたのですが、こちらとの対比や予想しなかったところで共通点が見えたのも面白かったなぁ。フリコミはまだ何度か観る予定なので、改めて感想を書きたいと思います!

 

出演者ではグイドの想像の中で動く男性ダンサーDAZZLEの皆さまの滑らかさがとんがでもなく気持ち良かった!普段からチームとして活動されているからこその一体感なんでしょうか。そして英語、イタリア語、フランス語を織り交ぜても隔たりを感じさせないキャストの方々も大変素晴らしかったです。舞台を観るときはなんとなく翻訳や訳詞のことがいつも頭の片隅にあるのだけれど、こういう変化球もアリだなぁと思った。普通なら考えもしない、試しもしないことがその作品では正解になることもある。無意識に何かを制限するっていけないなぁと反省しました。(ただ、言語をごちゃ混ぜにするよりはセリフは日本語だけ、歌は地のときは日本語、カメラを使った演出のときは英語といったようにある程度区切りを設けたほうがすっきりとして良かったと思う。忙しい切り替えに頭が追いつかないままで流れちゃうと勿体ないなぁと…)

 

公演中から発表されているDVD発売や配信も、最初から作ることを前提に拘られているんだろうなぁと感じて、そういった意味でも規格外に果敢に挑戦されているのは本当に凄い。あの演出を画面を通して観たのなら、とんでもない舞台と映画のハイブリッドになってしまうんじゃないでしょうか?コロナ禍でいつもと違う慣れない環境ではあるけれど、それを逆手に取るどころか更に攻めていく。その挑戦を観せてもらえる楽しさを、こちらも存分に楽しんでいきたいなぁと思うのでした。