私が生きてこなかった人生

ためらわず踏み出してゆくわ

ODYSSEY好きすぎて無理

7月21日に無事航海を始めた雪組公演『ODYSSEY』。この公演はもともと今年の1月に上演予定だったものの、初日当日の昼ごろ(ゲネプロ後)に中止が発表され、そのまま全公演がなくなってしまった作品である。

かつて沈んだ伝説の海賊船「ODYSSEY号」の航海をテーマに全編がショーで構成されており、まさに今回が待望の再出航となったわけだ。

 

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雪組公演 『ODYSSEY(オデッセイ)-The Age of Discovery-』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

 

この"伝説の海賊船"、"航海"というキーワードだけで血が湧きゾクゾクさえしてくる方も大勢いるだろうが、コンセプトだけでなく今まで観てきた宝塚のショーの中でもとりわけ素晴らしい作品なのである。7つの海を冒険するODYSSEY号はさまざまな国や地域を訪れるので、「こういう場面が観たかったー!」が2時間強にわたって延々と続くのだ。こんなにも幸せなことってあるんだろうかと思わずにはいられない。

いつもなら宝塚のレビューやショーについて感想を書こうとするとどうしてもそのシステム上、スターさんへの想いがメインになってしまいがちのだけれど(なので作品単位ではほぼブログに書いたことがない)、今回はどうしてもスターありきの上で構成や全体像の素晴らしさを語りたかった。

 

前半のAパターンを終えさらに進化する『ODYSSEY』を前に、今の気持ちをしたためたい。本当にオデ大好き。大好きすぎて無理。このときめきを残したいがために、1幕のあらすじと各場面の感想を書く。

思い切りネタバレなのでちょっとでも気になった方はそこで止めていただき、今すぐチケットを探すか8月7日の千秋楽配信を買いましょう!! 特に海外旅行やBWミュージカルが好きな方は、騙されたと思って今ここで買いましょう。私からのお願いだよ!!!

 

ACT 1  「Sea Breeze(海風)」

 

第1章 ODYSSEY
ーThe Age of DiscoveryーACT1 PROLOGUE

ストーリーが海に浮かび上がる幕開き

幕開きはワクワクの止まらない海賊船の映像が流れたあと、神々しい音楽と共に海の女神ティティスが登場。彼女に導かれるように月の女神セレネ、太陽の神アポロンが歌い、ついにカリブ海の底で眠っていた伝説のODYSSEY号が甦る。

帆を張った船の上にただ一人佇むのは、雪組トップスター・彩風咲奈(以下、咲ちゃん)演じる"美しき海賊王"ことブルーム!!!!!! 

 

もうこの時点で発狂モノのヤバさなのだけれど、ショーなのに素人の書いたあらすじがこれだけまとまってしまう完成度の高さに興味を惹かれていてくれたら嬉しい。ブルームとODYSSEY号を呼び起こす神たちを演じるのは、潤った歌声の美しい音色唯ちゃん(7月29日より専科の歌姫・美穂圭子お姉様が出演するため、前半のAパターンではそのポジションを務めている)、トップ娘役のきわちゃん(朝月希和さん)、2番手男役のあーさちゃん(朝美絢さん)である。スターを固めた完璧な布陣で期待いっぱいに盛り上げてから、海賊コスチュームの映えるトップスターがババーン!!! と登場してくれるのは宝塚ファン冥利に尽きる。ほんとカッコ良すぎて最高。

 

そして、ブルーム船長が率いる船員たち雪組生も加わりさらに盛り上がる主題歌では、今作のグッズとして販売されているフラッグを客席も一体となって振る。これも今までの客席参加型グッズの中で一番楽しい!! やっぱり誰しもが一度は憧れるであろう海賊になれるなんて嬉しいし、復活を待ちに待ったこの作品で劇場中が一体になって出航できるのも嬉しい。初日はボロッボロに泣いて旗振ってた。

 

第2章 Nautical Chart of the World(航海図)
ーLe Corsaire(海賊)ー

ときめきがやばい出航だ〜!!!!

ここからはいよいよODYSSEY号の出航に向けたプロローグ第2幕。続くのは問題作「どっせいODYSSEY」のナンバーだ。というのも「どっせい」というのは前のトップスター・望海風斗さん時代より、雪組の初日千秋楽に恒例行事として行う掛け声なのである。非公式だったそれがとうとう公演タイトルと掛けたテーマソングになってしまったということで、ヅカオタ界隈ではアホみたいに話題になった。もちろん犯人はこの公演の作・演を手がけている野口幸作先生だ。1月の中止時にはタイトルからどんな曲になるのか想像もできていなかったが、これが意外にもめちゃくちゃスルメ曲!!!! 海賊役の男役が一同に介し、爽やかかつ勢いのあるアップテンポなメロディーに合わせて「どっせいどっせい」や「面舵、取り舵、アイアイサー!」の掛け声がハマるのでむちゃくちゃ楽しい!! とんでもなく元気が出るアッパーチューン!!!

 

そして最後には、航海図の場面も。海賊に扮したあーさアポロンを中心に、これからの出発する7つの海のイメージをメドレー形式で紹介する。ここでの選曲はミュージカルナンバーが多く、私の初恋である『ガイズ&ドールズ』から「座れ、舟が揺れる(Sit Down, You're Rockin' The Boat)」も聴ける! しかもアレンジが『THE ENTERTAINER!』の102人ロケットっぽい! うううう嬉しい! このほかにも全編に渡ってミュージカルファン大喜びのオマージュや選曲がされており、さすが"現代のMGMの化身"(と私が勝手に呼んでいる)野口先生だなあと思う。設定、コスチューム、選曲によりゴリゴリに高まったプロローグを終え、ODYSSEY号はついに準備万端! 出航するのです!!

 

第3章 North Atlantic Ocean(北大西洋
ーNYC Speak Easyー

初っ端からいきなりNYは本気出しすぎ

さて、冒頭のカリブ海を1つ目と数え、残る6つの海を巡る船旅がついにスタート。最初に訪れたのは北大西洋の都市・ニューヨークである。

夜の街に繰り出したブルームは、目を見張るような美女を発見。彼女の後を追ってスピークイージーに入ろうとするのだが、ドアボーイに入店を断られてしまう。その海賊のナリでは入れられないというのだ。困ったブルームは店の前を歩く紳士たちの外套やステッキ、シルクハットをちょいと借りて身なりを整える。

ここまでがコメディ調で進む幕前の小芝居で、背景にはタイムズスクエア(ここにもミュオタならニヤニヤする仕掛けが!)という胸高鳴る場面のスタートだ。

私は都市モチーフのなかでもニューヨークが一番に好きで、今まで数々の作品や場面に心臓を握られてきた。しかも野口先生はその多くを手がけた第一人者。初めてニューヨークの街に飛び込み、一面のネオンに包まれたときの高揚感がこの『ODYSSEY』の場面でもダイレクトに味わえる。しかもセリフはなしに大好きなミュージカルコメディ風と来た。このとき舞台を観ている自分はほんっっっとうに我ながら目がキラキラしていると思うし、顔はとんでもなく惚けていると思う。

しかし、本番はここからだ。幕が開くとそこは先ほどのスピークイージーの店内。パイプを手に楽しむ客たちのもとに、タキシードに着替えたブルーム船長が登場。といってもカツラはブルームのロングヘアそのままに一つにまとめていて、そのギャップに死ぬほどときめく。無理。

追って登場するのはブルームお目当ての美女。演じるのはもちろんきわちゃんで、かつ役としてもセレネが扮している設定。この場面以外でもほんの一部を除き、ブルーム、セレネ、アポロン、ティティスは作品全体で通し役になっている。たとえ姿が違っても変装なのか、はたまた前世なのか、明言はされずとも魂は彼らのままらしい(めちゃくちゃオタクホイホイ)。その証拠としてセレネのお衣装やカツラには女神としてのデフォルトの姿と同じく、月を連想させるモチーフやシルバーとブルーが取り入れられており、踊り出すとスタイリッシュなスリットから御御足がガツンと出るドレスも最高。

ブルームとセレネのデュエットダンス、そして店の紳士淑女がジャズナンバーを踊り、ニューヨークの場面は幕を閉じる。書いてしまえば一言であっても、さききわちゃん(咲ちゃんときわちゃんコンビの愛称)が組んだときの追随を許さないときめき、三井聡先生のアンニュイな振り付け、そして咲ちゃんの「Big Spender」英語歌唱の抜け感。どれもたまらない狂おしさだ。さききわちゃんに似合うことも盛り上がることも分かりきっている、かつ自身の十八番ともいえるド定番・ニューヨークを頭に持ってくる野口先生の本気度やばい。ぶっちゃけここで本編が終わっても満足度120%。

 

第4章 East China Sea(東シナ海
ーRon Han Monー

あさまのみがそんなに可愛いなんて知らん

続いては東シナ海、中国の場面。王朝時代の雰囲気が漂う中、「ロンハンモン」をメインテーマに甘酸っぱい場面が展開する。ところでこのロンハンモンはプログラムにアルファベットで表されているものの、元となる花組公演のタイトルは漢字の「龍風夢」で「ロンハンモン」と読むそう。つまり1幕はやはり彩風咲奈さんの芸名から「風」をテーマに場面が作られているのだ。ちなみに今更だがブルーム船長の名前も咲ちゃんの「咲」、月の女神セレネも朝月の「月」、太陽の神アポロンも朝美の「朝」からである。

この場面は"中国の美男"に扮するあーさアポロンと、恋のお相手・桃姫が主役だ。まずあーさの登場からロンハンモンが一曲歌われるのだが、驚くことに音域がぴったんこ。ロンハンモンを今後ここまで朗々と歌えるのは朝美絢しかいないんじゃないか。そう思うぐらいにあーさの歌声の良いところにずぅーっともれなく当たり続けてもはや面白い。上手すぎて面白いのだ。

そして桃姫も、なんと、なんと、我らが男役・眞ノ宮るい(以下、まのみ)の出番である! 1月の中止時は裏の公演に出演しており、実は純粋で可愛い〜が見かけは完璧にチンピラな高校生を演じていたあのまのみが……桃姫……。ピンクのゆめかわいいお衣装が似合う。可愛い。予想外に可愛すぎて面白い。元々『ODYSSEY』に出演予定だったものの再出航を目前に退団してしまった元男役スター・あやなちゃん(綾凰華さん)のポジションをほぼ全てて務めているのだが、なぜあやなのイメージで作られた柔らかくラブリーな役柄がまのみに似合うのか。原理は分からずとも非常に愛らしい桃姫なのだ。

そして2人が組んだときのお互いの目線、添えられる手〜〜!! 甘々すぎてびっくりしてしまう。下手するともう二度と観られないのに、多大なる可愛いで爪痕を残してくるあさまのみコンビには心より一見の価値があると思う。この説明に「?」がたくさん浮かんでいるヅカオタは観ましょう。私はあさまのみが大好き!!!

 

第5章 Balearic Sea(バレアレス海)
ーCarmenー

ムキムキカルメンのカルテット

4つ目の海はバレアレス海、舞台はスペイン・セビリアに移る。幸せいっぱいのロンハンモンから一変、やたらカッコいいイントロと共に登場する赤ドレスの美女は男役・縣千(以下、あがち)。桃姫に続き、カルメンを演じるは男役だ。

このあがちのカルメンは、誰がどう考えてもアベンジャーズワンダーウーマン。やたらムッキムキの動きで踊ってくれる。強そう。めっちゃ強そう。

ホセに扮する咲ちゃんブルームはこのカルメンと恋に落ち、対する恋敵・エスカミーリョはまさかの、まのみ!!!! つい先ほど桃姫で観たばかりなので、初見は「いや、お前かーーーい!」と心の中でツッコミを飛ばすこと間違いなし。桃姫を1ミリも感じさせない金髪に白マタドールがめちゃくちゃカッコいい。ただしおそらくタイツは一緒だ。そして、ホセの婚約者・ミカエラを演じるのはひまりちゃん(野々花ひまりちゃん)。

この4人を軸にご存知の通りカルメンのストーリーが展開していくのだが、セリフも歌もほぼなく踊りのみで進んでいく。これが気持ち良いの何の!! カルテットで歌っているかのように、言葉や叫びが踊りから聴こえてきて重なるのだ。咲ちゃん率いる雪組は"ダンスの雪組"と表しても差し支えのないカラーだが、ここまで芝居が成立する踊りというものは初めて観た。しかも振り付けはドイツのマンハイム国立劇場でもバレエ『カルメン』全2幕を担当したという森優貴さん。今回初めて宝塚作品を手がけられているとのことで、心の底から野口先生GJである。愛憎劇にともすると起こりがちなチープさがどこにもない。荘厳な音楽とともに4人の心の機微のすべてから目を離せなくなる素晴らしいカルメンだった。

 

第6章 Arabian Sea(アラビア海
ーStranger In Paradaiseー

真っ白で純真な楽園に沈む

続いての海は、アラビア海。幕前のナンバーは、大商人の叶ゆうりくんを中心にディズニーシーのマジックランプシアターを思い出すコメディ風の一曲。これが短いのにとんでもなく楽しくて、『アラジン』が好きな人にはまず間違いなくブッ刺さる。ヘビ使いの少年役・すわんちゃん(麻花すわんちゃん)超〜かわいい! あんこさん(杏野このみさん)と白峰ゆりちゃん演じる囚われのお姉様方の薄いお腹!! ポンコツで憎めないアラビアンな海賊は稀羽りんとくんと絢斗しおんくん!! 2〜3分に留めておくにはもったいないコミカルで楽しいナンバーだ。

 

そこから幕が開くと広がるのは、ODYSSEY号の一室。金の奴隷となったブルームと、華世京くん(以下、かせきょーさま)演じる囚われの王妃のパドドゥが始まる。先ほどの明るさから打って変わり、薄暗い部屋の中で静かに澄んだ場面だ。ありすちゃん(有栖妃華ちゃん)によるなめらかで白い絹糸のような影コーラスをバックに、2人が心を通わせ踊る様は「ため息が出るほど美しい」の一言で表すのが精一杯。これ以上言葉を足せないのである。

この場面の振り付けも森先生が担当されており、カルメンよりさらにバレエに近くしなやかな印象。知っている中だと『パリのアメリカ人』や『Fame』の「Pas de Deux」に似ている。ラブシーンにおけるパドドゥは普通に芝居をしているよりもときめきのレベルが段違いというか、足音も聴こえるくらい静かなのに心がギュウギュウにかき乱されて苦しい。

この王妃・かせきょーさまも実は男役で、かつ咲ちゃんに憧れ、咲ちゃんと同じく主席で入団してきた3年目の超絶ホープ。憧れの咲ちゃんと2人きりで場面を作っていることにエモい〜〜と親心になってもおかしくないのに、それを考える暇すら与えないほどただただ純粋に綺麗で優美な一幕なのだ。

ところが2人を引き離すために船を牛耳る海賊たちが現れた。ブルームと王妃が逃げ惑う中、船には嵐が直撃。甲板にて海賊に背中を斬られ、息が絶えゆく王妃を抱きしめるブルーム。ODYSSEY号はブルームごとそのまま海の底へと沈んでいく。

 

第7章 South Ocean Aatarcitica(南極海
ーAurora Fantasyー

さききわちゃんは地球の希望

海の音ときらめく光で動き出すのは、月の女神セレネ。沈んだODYSSEY号のもとでブルームを甦らせようと舞い、そこへ呼応するように海の女神ティティスも唄う。ブルームはセレネとティティスの力に後押しされ、冷たい海の中からゆっくりと浮上していく。

実は直前の船が難波する場面でもセレネはアポロンと共に舞っていて、嵐が直撃し引き離されたブルームと王妃を一番に嘆き、何とかせねばと精一杯に己の力を振り絞っているのだ。

ちなみにパドドゥの幕開きと、ODYSSEY号が沈み始める場面後半で流れるメロディーを聴いて、私は真っ先に『リトルマーメイド』が思い浮かんだ。幕開きの♪トゥルル〜はアラン・メンケンがよく使う3音の連なりだし、嵐が直撃する場面はエリックの船が難破するときの「嵐(Storm at Sea)」にそっくりだ。そう考えると船の上のブルームをいつも見守っていて、海に沈んだ彼を助け出そうと自らの力を使うセレネはアリエルにも重なる。

はばまいティティス(音色唯ちゃん)が明日への希望を歌うなか、ブルームとセレネとして舞うさききわちゃん。これまでの2人の濃密なデュエットダンスとは異なりあくまで個と個として舞台上に存在するのだけれど、それでもお互いの波長が溶け合い、広い海を満たしている素晴らしさといったら……。もうこの場面は驚くほど涙が止まらない。

きわちゃんの退団が発表された6月13日から1ヶ月とちょっと。2人がトップコンビでなくなってしまう絶望とやるせなさと行き場のない怒りで雪組のことに触れるのも辛くて、大好きで大好きで仕方がなかったのに嘘みたいに心が動かなくなった。

でも舞台の上でお互いの気配を感じて、息を通い合わせる2人がいる幸せには抗えないのだ。正直お先なんて真っ暗なのに、この『ODYSSEY』が終わったらさききわちゃんが相手役なのかも確かでない一本物しか残されていないのに。それでも歌詞の通り未来を信じたくなってしまう。信じさせてくれる希望に満ちている。きわちゃんの大事な大事なプレさよならが『ODYSSEY』で本当に良かった。

セレネがいるからブルームが甦るように、きわちゃんがいるから咲ちゃんがますます素敵なのだ。これは誰が何を言おうと、何があろうと絶対に裏切らない。

 

第8章 Mediterranean(地中海)
ーArrival of Caravan(キャラバンの到着)ー

太陽が降り注ぐさききわあさの完成形

物語はついに7つ目となる海に到達した。そこは日差しが燦々と輝く地中海である。太陽を背負ったアポロンの登場から『ロシュフォールの恋人たち』の代表曲「キャラバンの到着(Arrivée des camionneurs)」が展開。イントロに合わせて黄色のスーツの男役が、続いて黄色のワンピースに身を包んだ娘役が次々と登場する。

もちろん黄色といえば『SUPER VOYAGER!』の「海の見える街」で、カラースーツのカップルの中、当時初共演であったさききわちゃんコンビが真ん中で着ていたあのお衣装がすぐ連想される。そしてナンバーのアレンジも「海の見える街」と同じジャズバンドの編成。野口先生が作り、さききわちゃんが踊り、団体賞も取ったあの伝説の始まりがついに甦る。まさに『ODYSSEY』の主題である……。

心拍数が急上昇する中、アポロンとよく似たマゼンダのインナーに黄金色のスーツで登場し踊るブルーム。ここまでくると心臓が壊れそうになりながらも、「海の見える街」の進化の末がロシュフォールであったことにも震えるように感動した。

なぜかって咲ちゃんをミュージカルスターに例えるなら絶対にジョージ・チャキリスだからだ。ジーン・ケリーでもなく、フランク・シナトラでもなく、絶対にジョージ・チャキリスである。これだけは譲れないと思っていた数年間、しかも『ウエスト・サイド・ストーリー』ではなくロシュフォールのジョージ・チャキリスというのがミソだ。咲ちゃんとジョージ・チャキリスの共通点は背格好と踊りのタイプで、ステップを踏んだときの音が鳴るような軽やかさは両者とも随一の武器だと思う。そんなことから初めてロシュフォールを観たあの日より、私は咲ちゃん≒ジョージ・チャキリスだと思っていたのだけれど、実はここでもう一点重要なことを思い出す。ロシュフォールにおいて出演する海外スターに似ているのは何も咲ちゃんだけではない。あーさちゃんに骨格がそっくりなジャック・ペランがいるではないか。それこそ映画の初見時には理想の恋人を探して物思いにふけながら歌っているサラサラ金髪のジャック・ペランに、『アーサー王伝説』のランスロットを思い出しながら「うっわ、絶対に宝塚でやるならあーさちゃんじゃん」と思ったのだ。

『SUPER VOYAGER!』では「海の見える街」の場面に出演していなかったあーさ。そのあーさが太陽神アポロンとして加わることで、甦ったさききわちゃんの伝説はロシュフォールに進化し、一度海に沈んだブルームは太陽のように昇る。そしてシルバーがテーマカラーのきわちゃんセレネも、この場面では太陽の光で輝く黄金色のお衣装になる。

「海の見える街」と同じ三井先生の振り付けでデュエットを踊るさききわちゃん。場面だけでなく組を率いるトップコンビとしてお衣装も豪華になり、もっともっと輝いているさききわちゃん。そして2人に寄り添い、照らすように三角形の一辺を担うあーさちゃん。もう感情が洪水のように溢れかえり溺れて帰ってこられない。『ODYSSEY』は愛するさききわちゃんコンビの歩いてきた歴史で、未来で、あーさちゃんも加わった今なのだ。

7つの海を渡ったODYSSEY号はここで一度幕を下ろし、2幕では「彩風」をテーマに更なる航海が続く。2幕も勢いは衰えることを知らず、怒涛の詰め込み具合なのでものすごく喋りたいのは山々だか、既に1万字近いので一度切ろうと思う。お名残惜しくちょっとだけ先出しすると、2幕は中詰みたいなのが3回くらいやってくる。そして恒例のアイドル場面も、芝居仕立ての場面もある。1幕がミュージカルの王道を股にかけまくる豪華さなら、2幕は観たい宝塚の一挙上演みたいな絢爛っぷりだ。こちらも愛してやまないので、そのうちに書き留めたい。

 

改めると『ODYSSEY』を通して好きなものには逆らえないし、好きなものが好きなものを背負うと死んだ心までも生き返り、もう絶対に抗えないと身に染みて分かった。

私の宝塚ファンとしての基礎になっている『THE ENTERTAINER!』(以下、エンタテ)を作り、まさしくショーの親のような野口先生。そして初恋以来5年ぶりの再来となった大っっっ好きなトップコンビ・さききわちゃん。両面からの作用でひたすらに好きなもの同士がさらなる化学反応を起こすと、もう素直に従うしかない。

こんなことを言うのはとんでもなく生意気だけれど、それこそエンタテなんてあまりに大好きで、野口先生の大劇場デビュー作にして私にとっても初めて観たショーなのに、生涯これを超える作品には二度と出会えないかもしれないと思っていた。どれだけ野口先生の作品が話題作続きでも、私の中では絶対にエンタテを超えられなかった。でもやっと匹敵するような、もしかしたら超えてくれるかもしれない『ODYSSEY』に出会えたことも嬉しいのだ。

観るたびに、一場面が終わるごとに、「楽しーーーーい!!!!!」と叫んで泣き出したくなる。そのぐらい『ODYSSEY』が好きで好きで好きでどうしようもない。早く観たい。早く船に帰りたい。

明日からはいよいよ美穂さんが加わり、Bパターンの始まりだ。透明にキラキラ光るはばまいティティスから、深く深く包み込んでくれるであろう美穂ティティスへ、どうか無事に海が繋がりますように。まだまだ航海が続きますように。ODYSSEY号に乗れる日が待ち遠しい。