破壊、暴力、狂気、抑圧、洗脳の先は断じて愛じゃないーー『じゃじゃ馬ならし』イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出
東京芸術祭2020の芸劇イヴォ祭り、『じゃじゃ馬ならし』を観てきた。
収録映像ではあるが、初めてのR18作品の観劇。
NTLive『イブの総て』ではカメラを使い、劇中生で撮影するなんて見たこともない演出をする人だと印象的だったイヴォ・ヴァン・ホーヴェ。今回も舞台上にガラス張りの部屋があり、その中と前後を使うという空間の取り方が独特で面白かった。が、ストーリーは一言で言うなら”モラハラDVサイコホラー”。約120分、ずっと心臓が掴まれているような最悪、不快、やめてくれ、しんどいの嵐である。
ただしアホみたいに条件だけを並べポンポンと娘を嫁に出すのも、気性が荒く「じゃじゃ馬」と呼ばれる妻を手なづける方法が食事を摂らせない、眠らせないといったDVだったのも、全部過激なレイティングつきの演出と同じく彼の潤色なのかと思ったら、シェイクスピアの原作からまるまるそうだったというのが一番怖かった。 ほかのバージョンを観たことがないけれど、この作品は喜劇らしい。そんなわけあるかい。
Twitterを見た限りでも最悪だった、意味がわからないというような感想が多かったのだけれど、あからさまに不快感を煽ってくるところからして、この演出は100人中100人とまでは言えなくとも、90人は異常だと感じることが重要なのではないか。どんなじゃじゃ馬だろうと一人の人間から人権を奪い、暴力で制圧すること、そしてそれを許す環境って惨いでしょ。胸糞悪かったでしょ。そう説いているのだと信じている。(ただし真意は分からないので本当に説明してほしい…)
あまりのストレスのかかりようだったのか、途中お腹まで痛くなってきたし、もう一度観たくはない。でも同じストーリーで「夫婦のいざこざでした〜笑えるよね〜〜」なんて演出をされたらそれこそもっと冗談じゃない。目逸らして生ぬるいこと言ってんじゃねえよと怒りが湧くだろう。それってイヴォさんのおかげなんじゃないかと。
”ならし”なんて可愛く言ってもモラハラDVによる調教であり洗脳。それは現代においてもニュースで目にするような問題であり、根本にある家父長制やミソジニーだって断絶されていない。兎にも角にも遠くに感じて他人事だと笑える話じゃないのだ。今回の演出によって、"シェイクスピアの描いた物語"というだけでは済まなくなったように思える。
かなりの荒治療だったけど「知る」という意味では観てよかった。知らないままじゃじゃ馬ならしで笑ってる自分が居たとしたら本当に怖いから。そして、こうして咀嚼できてからだと面白かったなあとも思う。現時点ではオーソドックスな演出が微塵も想像できないのですが、そっちも観た方が今回のイヴォ演出をどう捉えたのかも知りたいです。あとこの不快感ははたして男性にも伝わっているのかな〜?と思ったのだけれど、その心配は杞憂だったよう。今回ばかりはみんなにとっての最悪で本当に良かった。この世の見たくないものを全部詰め込んだみたいな凄まじさでした。「えー?そんなに?」と思う方はとりあえず、ディザーだけでも観て欲しい。この1分だけでも、異常なものを目にし続ける感覚がお分かりいただけるんじゃないでしょうか。
Trailer The Taming of the Shrew 12|13 subtitled - Toneelgroep Amsterdam
おわり